グローバル展開を考えているWebサイトを構成する際、ユーザーが必要に応じて様々な地域の言語を登録できるようなシステムを構築すると、よりWebサイトの利便性を向上させることができます。
例えばYouTubeの字幕はその一例で、動画ごとに任意の言語の字幕情報を登録することができます。
このようなWebサイトのバックエンドをLaravelで構築する際、どのようにすればいいか、簡単なシステムを例にLaravelの機能を活用した扱いやすい多言語モデルの実装方法を解説していきます。
この記事は一度Laravelを使ってWebサイトを作成した人向けに解説しているため、Laravelの細かい説明などについては説明を省いています。
作成するシステムの要件
システム要件は以下の通りです。
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最初に対応する言語は英語、日本語。今後増える可能性あり。
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複数の言語を同時に表示しない。
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上記言語データを持つ「タグ」を扱えるようにする。
-
タグが持つデータはタグ名(name)のみ。
環境構築
本システムはLaravel Sailを使用して環境構築します。
公式サイトのドキュメントに各OSごとのインストール方法が書かれているので、それを参考に環境構築します。
https://laravel.com/docs/8.x/installation#your-first-laravel-project
上記コマンドでエラーが発生せず、Dockerコンテナが起動すればうまく構築できています。
http://localhost
にアクセスしてLaravelの初期ページが確認できればOKです。
構築した環境は以下の通りとなります。
Config設定
既存設定修正
まずは言語設定に関するものを修正します。
config/app.php
を開き、以下の項目を修正します。
言語ファイル追加
対応している言語を設定するため、 config
フォルダ下に locales.php
ファイルを追加します。
追加後は ./vendor/bin/sail artisan config:cache
を実行してキャッシュファイルを更新します。
テーブル構成からモデル作成まで
構成
タグの実装は、メタデータを持つ Tags
テーブル、各言語ごとのデータを持つ TagTranslations
テーブルの2つに分割します。
💡
TagsテーブルとTagTranslationsにもたせるデータの違い
この二つのテーブルは、抽象的に考えると、Tagsにはタグそのものを説明するメタデータを、TagTranslationsにはタグのデータ(タグ名)を格納しています。
Tagsテーブル
カラム名 |
属性 |
型 |
意味 |
id |
primary |
BIG INTEGER |
|
created_at |
|
TIMESTAMP |
|
updated_at |
|
TIMESTAMP |
|
deleted_at |
nullable |
TIMESTAMP |
|
TagTranslationsテーブル
カラム名 |
属性 |
型 |
意味 |
tag_id |
primary |
BIG INTEGER |
Tagsテーブルのid |
locale |
primary |
char(5) |
言語コード |
name |
|
VARCHAR(255) |
タグ名 |
TagTranslationsテーブル
このシステムでは対応する言語情報をconfigファイルとして書きました。
Languagesテーブルを作成し、整合性制約をかけることでより厳密なデータ保存が可能ですが、以下の理由によりデメリットのほうが上回るため、configファイルとして作成しました。
-
ページ表示のたびにデータベースにアクセスする必要性が高い
-
configファイルはデフォルトでキャッシュされるので、簡単に高速アクセスできる
-
DBの整合性制約コストがあるため、大量のデータを扱うときに足枷になる
-
頻繁に対応言語が変わることはない
-
厳密さはシステム側のコードで十分担保可能
マイグレーション
テーブル構成を考えたら、その構成を実際に構築するマイグレーションファイルを記述していきます。
tags
tag translations
マイグレーションファイルを作成したら、 ./vendor/bin/sail artisan migrate:fresh
を実行し、テーブルを作成します。
モデル作成
ファイル作成
マイグレーションファイルが書けたら、次にモデルを作成します。
使いやすさを向上させる
上記ファイルでも問題ありませんが、実際に使用しようとすると扱いづらさを感じると思います。
例えば、日本語のタグの名前を取り出す際は以下のように記述する必要があります。
ただ名前を取り出すだけなのに、毎回where文を書くのは面倒です。
今回のケースでは、同時に複数の言語を取り出す可能性がないという前提条件を考え、以下のアクセッサーをTag.phpファイルに定義します。
これで、以下のように簡単に現在の言語のnameを取り出せます。
他の言語も取り出せるようにする
上記やり方で現在の言語のnameを取り出しやすくなりました。
他の言語も簡単に取り出せるようにするため、Modelの __get
メソッドをオーバーライドします。
これで、任意の言語のnameを取り出しやすくなりました。
システムを多言語化する
モデルが作成できたので、次にシステムを多言語対応します。
Laravelではユーザーが設定した言語情報を保持する仕組みがなく、リクエストしてきたクライアントブラウザの言語設定で動作するので、開発者自身で現在の言語を保持する必要があります。
言語設定をSessionに保存する
簡単な言語変更用のフォームを作成し、フォームで設定された内容をセッションに保存します。
まず、 routes/web.php
に以下のルートを作成します。
次にコントローラーを作成し、入力された言語設定をセッションに保存します。
Middlewareを作成する
次に、セッションに保存された言語設定を反映させる処理を作成します。
言語設定は全ページで反映させる必要があるので、そのような機能はMiddlewareに書くのが最適です。
以下の例では、 Language.php
というMiddlewareを作成しています。
次に、このMiddlewareを Kernel.php
に追加します。
webに追加することで、 web.php
で設定されているすべてのルートに対して、このMiddlewareが動作します。
最後に、bladeでフォームを作成して完了です。
これで、 App::getLocale()
で設定した言語を取り出せます。